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APU学長 出口治明先生が語る、社会を生き抜くための武器とこれからの教育

みなさん、こんにちは。英数学館の渡辺です。

みなさん、出口治明さんをご存知ですか?どこの本屋さんに行っても、山のように書籍が平積みにされてますし、戦後初の独立系生命保険会社ライフネット生命を創業されたり、立命館アジア太平洋大学初の民間出身の学長になられた方で、テレビや新聞などメディアでも引っ張りだこで、知の巨人などと呼ばれているので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。

そんな出口先生にオープンスクールにあわせて「社会を生き抜くための武器」をテーマに、これからの時代を生き抜くために必要な力について特別授業をしていただきました。

約100分間という時間でしたが、まず、自分の住む街、ここ福山市がそんなすごいところだったのか!?から始まり、子どものころから何度も言われてきた根拠のない「勉強しなさい」が今更ながら根拠のあるものになり、自分の持ち場で頑張れてるのか、私!?と自問自答し、大人たちやばいぞ!なんて思っているうちに特別授業の時間はあっという間に終了してしまいました。

そして特別授業終了後、3児を育てる母、そして一人の大人として、猛省しました。

自分自身が子ども達に頑張る姿を見せられているのか…
忙しい日々を言い訳に大人としてやるべきことを疎かにしていないか…
子ども達の見本となるべく行動できているか…

社会を生き抜くための武器が子ども達の身に付くかどうか。
それは私たち大人にかかっています。
より良い社会を作るにはまず自分自身が変わること。

大人たち!!率先垂範しましょう!!

そんな決意をさせてもらえた素晴らしいお話をみなさんにも特別にお届けします。

出口先生 紹介

出口 治明氏(でぐち はるあき)
1948年三重県⽣まれ。1972年京都⼤学卒業、同年⽇本⽣命に⼊社、2006年退職。2008年ライフネット⽣命を開業。2012年上場。社⻑・会⻑を10年務める。国際公募で推挙され、2018年1月に立命館アジア太平洋大学(APU)第四代学長に就任。同大学初の民間出身の学長となる。主な著書(単著)『全世界史(上・下)』(新潮文庫)『人類5000年史(Ⅰ~Ⅲ)』(ちくま新書)『0から学ぶ「日本史」講義(古代編・中世編)』(文藝春秋)『哲学と宗教全史』(ダイヤモンド社)、その他多数。


義務教育の発祥の地は福山!?

みなさん、歴史の時間に江戸時代の3大改革というのを習ったと思います。覚えていますよね。

享保の改革、寛政の改革、天保の改革。これは大した改革ではなくて、これはすべて農業が大事だから農業をベースにしようという改革です。

実は江戸時代の改革の中で、一番すごい改革は安政の改革です。

明治の直前ですが福山藩主の阿部正弘がまさに国を開いて、開国富国強兵という大きいビジョンを描いて、陸軍のもと、海軍のもと、東京大学のもと、それから義務教育のもと、身分によらない教育を誠之館で始めたんですね。

司馬遼太郎さんという文章の上手な人がいて、明治維新は坂本龍馬のおかげだとか思っている人がたくさんいるようだけれど、歴史から見れば明治維新の恩人は阿部正弘です。

日本のまさに近代化の恩人ですけれど、そういう日本の義務教育の発祥の地ともいうべき場所が福山なんですね。


「国・算・社・理・英」を学ぶのには根拠がある。

始めに教育とは何だろうということで、人間はなんで20年も25年も教育を受けなければいけないのか?という所から話を始めようと思います。

動物であれば自分で餌を捕ることさえ覚えれば大人になる。
けど人間は高度な文明を築いてしまったから、それでは生きていけないので教育に時間がかかるようになりました。

そして主要な科目には全部根拠があります!

まず国語です。

国語はなぜかと言えば、人間は頭が大きい。考えることができると言うところで動物とは違う。

言語は単なるコミュニケーションのツールではない。思考のツールです。人間は考える葦ですから、人間は言葉を使って考えるので、どんな国民であれ国語はマストです。

その次に人間は分業しています。分業ということは、いろんな人が違う仕事をする。

分業すればすごく効果的になるわけですけど、生活に必要なものを交換しないといけないからちゃんと数えて計算する。算数が必要になります。

それから人間は自然を利用する。例えば木を切ってきて炭を作る。石油を掘って燃料にする。だから理科は不可欠ですよね。

この3つがいかに大事かというのはOECDの学習到達度調査というのがあって、世界の15歳の勉強レベルを調べる能力が3つの項目から成り立っていますよね。読解力、数学的な思考力、自然科学的・理科的な能力。これはまさに国語と算数と理科が不可欠であるということを意味しています。

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出典:国立教育政策研究所ホームページ(https://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/index.html)

なぜ社会がないのか。これはみなさん分かりますよね。

国によって文化や伝統が全部違うからです。だからOECDの学習到達度調査には社会が入っていない。横比較ができにくいわけですから。

でも我々は日本の社会で暮らしているわけですから、日本の社会の仕組みを知らなくして生きていくことはできませんよね。なので社会も重要。

もう一つ、英語があります。
英語というよりはリンガフランカ(共通語)と言ったほうがいいと思いますが、世界の共通語の勉強をしなくてはいけない。

これもなぜだかわかりますよね。

たとえば現代の便利で快適な生活は化石燃料、石油、鉄鉱石等の金属、それからゴムという3つの貴重な3資源の上に成り立っています。

この資源が何で必要かは、現代文明の象徴である自動車や飛行機を見れば一発でわかりますよね。この3つの資源の塊です。

資源は点在しています。

アメリカのように化石燃料が世界一の国はじつはほとんどない。日本もドイツもフランスもほとんどの先進国はこの3つの資源を持っていないんで世界中仲良くしてお互いに資源を融通してもらわなければ、豊かな生活を維持することはできません。

アメリカのように自国ファーストで生きていける国はほとんどありません。

ほとんどの国はグローバリゼーションで仲良くやっていかなければ今の生活を維持できない。これがリンガフランカを勉強する理由であって、現在のリンガフランカは英語ですよね。だから英語を勉強しなければいけない。

国語、算数、理科、社会、英語、主要科目はなぜ勉強しなければいけないかという理由が明確にあるわけですね。


すぐに使える学問や勉強はすぐに陳腐化する。

最近、探究力や問いを立てる力が何よりも大事だと文科省でも言われています。これが新しい学習指導要領の中心になっています。

なぜか!?

その理由は簡単で、世の中の技術の進歩が速いからです。

プログラミングが大事やでと言われてますが、小学生に今のプログラミングを教えてもその小学生が卒業するころには誰一人使うてへんで、という話聞いたことありますよね。

社会の進歩が速いということは、すぐに使える学問や勉強はすぐに陳腐化するということです。

だからこそ、何が本質で何がこの問題の根幹なのかという探究力、問いを立てる力。それが必要になってくる。

これは文科省だけじゃなくて世界の先進国の共通の課題です。


本来、学ぶことに前向きな小中高時代に学びの習慣をつけろ。

現在の脳科学や心理学の最近の成果によると、勉強したいとか学ぶことが楽しいという気持ちは18歳から19歳がピークで、そのあとはどんどん減退することが分かっています。

自転車や水泳と一緒で「学ぶ」というのは一つの習慣です。

その習慣をつけるためには、実は人間の脳の構造から考えて小学校・中学校・高等学校がとても大事だということが分かっていただけると思います。


子供たちの行動は大人を映す鏡

どんなデータを見ても日本の子どもたちは消極的で元気がありません。
こんなことでは心配だと、教育をちゃんとしないといけないという話になりますが、根本から間違っていると思います。

子どもたちの対応や子どもたちのスタンスは大人を映す鏡なんですよね。
だから日本の子どもたちがリスクを取らないということは大人がリスクを取らないからです。

子供たちが勉強しないということは大人が勉強しないからです。

子供たちが専門的な教育や専門的な学問を身に付けたいと思わないのは大人たちが思わないからです。

そのことを忘れてはいけないと思います。

大学進学率

出典:産業競争力会議下村大臣(当時)発表資料「人材力強化のための教育戦略」(2010年)


日本は大学に行かない国で、大学進学率はOECD平均より低い。
つまりぜんぜん勉強しない国なんです。

大人が勉強しなくて子どもがどうやって勉強するの?という話ですよ。
ありとあらゆる場面で、なによりもわれわれ大人のチャレンジ精神が欠けている。
そんな大人をみて子どもたちが社会のために頑張ろうと思うかという話です。

言いたいことは分かっていただけると思いますけれど、
まず教育をうんぬんする前に、われわれが一人の大人として自分の持ち場で何をするかということですよね。

言いたかったことは
探究力や問いを立てる力というのは、学校で我々が子どもたちに教えるものではない。

我々自身が探究力や問いを立てる力というのを蘇らせて、われわれ大人がどんな社会を作っていくんだろうというのをみんながそれぞれ頑張らなければいけない。

学校の先生お願いしますよ、立派な子どもに育ててくださいと言っているだけではいかんということです。

子どもは大人を映す鏡なんです。それが社会を生き抜くための武器。

探究力や問いを立てる力というのはわれわれ大人がまず率先垂範しないといけないんだとお話しして僕の話を終わりたいと思います。


褒める、比べない、好きなことをやらせる。これが教育の本質。(質疑応答セッション)

特別授業後には質疑応答の時間がありました。
講演後挙手のない講演会は最低である…もちろんそのようなことはなく!笑
限られた時間の中で熱くお話いただきました。

ーー本を選ぶポイントは?

本を選ぶポイントはめちゃ簡単で、面白いかどうかですよね。本屋に行ったら最初の10ページを立ち読みします。本書く人は読んでほしいと思っているので最初の10ページが重要。力を入れる。だから最初の10ページを読んで面白くない本は面白くない。

あとは新聞の書評。新聞って見栄っ張りですよね。だから有名人を引っ張ってくるじゃないですか。東大の先生とか。有名人が本名で書いてて、しかも日本の新聞は何百万部出てる。ニューヨークタイムズは百万部ありませんから。ということはアホなこと書いたら恥かくわけですから、一生懸命書くに決まってるんで、新聞の書評と立ち読み10ページで面白い本は簡単に選べる。


ーー歴史と哲学について学ぶ理由は?

歴史って何だと言えば、過去に地球上で生きてきた何百億の人たちの人生の集合体が歴史。面白いものや大事なものだけが残っている。例えば日本は地震の国。地震が起こったときにどうすれば助かるか、東日本大震災のことを勉強しておいたほうが助かる可能性が高いですよ。

事実は小説よりも奇なりで、大学の先生が作ったケーススタディより歴史のほうが役に立つ。歴史は過去のケーススタディだと。だから将来何かが起こったときに対応するために歴史勉強しておいたほうがええでと。

哲学は世界を丸ごと理解しようとする学問ですから。世界を理解するには全体の仕組みを考えなければなりません。物事は部分だけで見たら判断できない。全体を整合的に見なければ理解できない。哲学は部分最適ではなく全体最適をみようとする学問。そういう風に理解したらいいんじゃないでしょうか。


ーー大学に進学するためだけの学びに疑問を感じています。小中高の理想的な学びはどのようなものと考えられていますか?

子供を育てるときに大事なことはまず褒めること。
一般に言われていることですけど、現在の心理学では子どもを叱って能力が伸びることは皆無だと言われています。叱るという行為は人間の脳が委縮してその行為をしなくなります。でも法に触れるようなことだけは厳しく叱ってください。

もう1つは、比べないこと。

人間の社会はグラデーションで出来てます。100メートルを早く走る順番で並べたらウサインボルトを先頭に77億人が並ぶ。背が高い順に並べても77億人並ぶ。世界はグラデーションの集合で出来ていることを理解すれば平均とか普通とか言うことはないので、違って当たり前なんで比べる必要がない。

もう1つは、好きなことを徹底的にやらせることですね。

ゲームばっかりやってるとゲームばっかやめて勉強しなさいというんじゃない、と。そんなにゲームが好きならすごいゲーム作ってめちゃお金儲けしてお父さんお母さんにおいしいごはんたべさせてよ、とけしかけるべき。

これはいい場合悪い場合あるかもしれませんが、実は人間が社会で生きるためには俗にいう非認知能力、そういった自己肯定感が大事だということが分かっていて、褒める。人と比べない。好きなものをやらせる。この3つを徹底すれば子どもはすごく伸びる。比べなければ東大なんて関係ない。


ーー日本の大人たちが自ら勉強しようとしない、良い世の中にしようとしなくなったのはいつからでしょうか?

大昔までは日本人はチャレンジングで、世界中に華僑が全然いなかったときに、山田長政はタイで大暴れしているわけですし、明治の岩倉使節団をみてもみんなめちゃ勉強してますよね。特に顕著なのはバブルが崩壊してからでしょう。


ーー日本ってもう変わらないんじゃないかって諦めている自分がいます。どうしたらいいでしょうか?

どんな社会でも変わりますよ。日本は歴史でいえばめちゃ変わりやすい国ですよ。例えば1945年8月15日のビフォーとアフターでは全く違うわけですよね。ある外国人の友人が言ってました、日本人って理解でけへんと。少し前ですけど、小泉さんと鳩山さんは水と油やんと。なんで同じような支持率なのか。ピーク時はどちらも8割近い支持率がありましたから。変わらないと思ってるのは本当にグローバルから見てそうなのか。僕はいくらでも変われると思います。


最後に…出口先生からのメッセージ

時間がないのでこれで終わりますが、もし質問があれば本屋に行ってください。僕の本が何冊か置いてあると思います。

前書きを見ればほとんどすべての本に個人のメールアドレスが載っています。だからそこだけ写メを取って本はまた本棚に戻していただいて結構です。そして質問をいただければたいていの場合は、お答えできると思いますからいつでも気楽にご質問ください。

そしてAPUはとても面白い大学です。学生の半分が外国人で90の国や地域から来ていますから、若者の国連です。先生方の半分が外国人で28の国から来ています。コロナが落ち着いたぜひ遊びに来てください。

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いかがでしたでしょうか?出口先生の記事はウェブにも沢山ありますが、”生”出口先生は本当にすごかった。知の巨人と言われる理由もわかった気がします。

が何より、こう言うお話をいただくと1週間くらいは、よしやるぞ!と言う気になるものですが、徐々に日常に戻ってしまうことはありませんか?

ただ、子供は大人を映す鏡と考えると、子育てとは自分自身の成長に他ならないと思います。私も3児の母として、今日から子育て≒自分自身の行動を変えてみようと思います!