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国際バカロレアの理論と実践:POI編(第2回)

こんにちは!広報アンバサダーの枡野です。

国際バカロレア(IB)、とりわけPYP(Primary Years Program)について、英数学館小学校における理論と実践を取材していくこの企画。

前回は、POIにおける6つのテーマの中から「Sharing the Planet(この地球を共有するということ)」を取り上げ、1年生の様子をお届けしました。

第2回では、「Where We Are in Place and Time(私たちはどのような場所と時代にいるのか)」というテーマに、4年生が取り組む様子をご紹介します。

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実践:都道府県のPR大使になろう!

都道府県の調べ学習、というと、割とよくある学習内容かもしれません。

英数学館でも、1年生は学校、2年生は町、3年生は福山市、というように段階的にエリアを広げて、4年生では「都道府県」を学習します。

しかし、児童一人ひとりの主体的な学びに重点を置き自主性を尊重しつつ、教科横断型で学習していくのが、PYPの面白いところ。

4年生は、各都道府県のPR大使になりきって、国語や図工といった要素も織り交ぜながら、最終成果として「プロモーションビデオ」を制作します!

まず初めに、くじ引きで担当する都道府県が決まります。

担当地域の決め方には議論の余地がありますが、児童たちが日本全国へと関心を広げていけるように、また好き嫌いなくフェアに割り当てられるよう、地元の広島県・岡山県は外した上で、くじ引きをすることにしました。

自分の担当が決まった児童たちは、その魅力をプロモーションするべく、自分で色々な観点からその都道府県のことを調べていきます。

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練習として、クラス全体で広島県の交通・特産物・文化などは調べたことがあるので、そうした経験を応用しながら、まずは担当地域の特色を洗い出していきます。

次に、自分で調べた内容を、指定サイズの模造紙にまとめて行って、ポスターを作成します。

ここで、単なる学習まとめに終わらないところがポイントです。

PR大使がプロモーションをするのですから、自分の考えをただ一方的に話すのではなく、「話を聴いてくれる相手はどんな人で、どんなところに興味を持ちそうか」を考え抜かなければなりません。

さらに関心を強めてもらうために、ご当地キャラクターのデザインにも挑戦しました(この辺りは図工的要素が含まれます)。

調べ学習の内容をもとに、かつ話し相手の興味を引くようなキャラクターをデザインするのは、左脳と右脳の高度な複合技です。

最終的には、3週間に及ぶ準備期間を経て、プレゼンテーション大会が開催されました。

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児童たちは、テレビスタジオをイメージしながら、想いのこもった力作ポスターの前に立って、1人あたり4分間程度のプレゼンを行います。

IB教育では「Reflection(振り返り)」も重要視されていますが、このプレゼンは何と全員が事前に予行演習を行なって、自分でその動画を確認し、友達のプレゼンの良かった部分を取り入れながら、本番撮影に向けてプレゼンの改善にも取り組みました。


理論:どんな人間に成長して欲しいのか?

POI(Program of Inquiry)のテーマは6つありました。

・Who We Are
・How We Express Ourselves
・Where We Are in Place and Time
・How We Organize Ourselves
・How the World Works
・Sharing the Plane

なぜ、この6つのテーマなのか?

実は、アメリカの 著名な教育学者、アーネスト・L・ボイヤーが提唱した「Human Commonalities(人間の共通性)」が重要な契機となっているそうです。

アーネストは、人類が国籍・文化・時代を問わず経験する「核となる共通性」を示しました。

こうした考え方をもとに、国際バカロレア機構が「国際教育プログラム」であるIB教育において必須と考えられる6つに集約したのが、POIのテーマなのです。

IB教育は、教科ごとの学習を軽視しているわけではありません。

しかし、それと同じくらい重要なこととして、実践に即したスキルを習得すること・児童に関連の高い内容を探究すること・そして既存の教科の垣根を越えて学習することを掲げています。

そのため、POIの6つのテーマに即して、UOI(Unit of Inquiry)という教科横断型・学年縦断型の探究学習を行うことが、PYPの柱になっています。

では、そのような学習を通して、どんな人間に成長して欲しいのか?国際バカロレアの使命は、「多様な文化の理解と尊重の精神を通じて、より良い、より平和な世界を築くことに貢献する、探究心、知識、思いやりに富んだ若者の育成」を目的としていますが、その具体的な特質、信念や価値観を表現するものとして、有名なあの「IBの学習者像」が示されています。

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ところで、今回のテーマは、Where We Are in Place and Time(私たちはどのような場所と時代にいるのか)場所と時間への適応、個人の歴史、家と旅、人類による発見・探検・移住、地球規模そして地域レベルの観点から見た個人と文明の関係性と相互的な関連性に関する探究。とされており、日本の科目でいうと社会が中心となりそうなテーマですね。

英数学館小学校が、文部科学省が定める1条校(注釈1 )として、学習指導要領のどんな指導※内容を盛り込んでいるのか、ご参考までに今回も列挙しておきます。

(ちなみに、UOIでカバーしきれない内容ももちろんあり、各教科の授業時間で学習しています。)

社会 3・4 (6)ウ エ
(6)県(都、道、府)の様子について,次のことを資料を活用したり白地図にまとめたりして調べ,県(都、道、府)の特色を考えるようにする
  ウ 県(都、道、府)内の特色ある地域の人々の生活
  エ 人々の生活や産業と国内の他地域や外国とのかかわり
社会 5 (1)ア イ
(1)我が国の国土の自然などの様子について,次のことを地図や地球儀,資料などを活用して調べ,国土の環境が人々の生活や産業と密接な関連をもっていることを考えるようにする。
ア 世界の主な大陸と海洋,主な国の名称と位置,我が国の位置と領土
イ 国土の地形や気候の概要,自然条件から見て特色ある地域の人々の生活
国語
 B-1 ア 書く内容の中心を明確にし,内容のまとまりで段落をつくったり,段落相互の関係に注意したりして,文章の構成を考えること。
   ウ 自分の考えとそれを支える理由や事例との関係を明確にして,書き表し方を工夫すること。
    エ 間違いを正したり,相手や目的を意識した表現になっているかを確かめたりして,文や文章を整えること。
 C-1 ア 段落相互の関係に着目しながら,考えとそれを支える理由や事例との関係などについて,叙述を基に捉えること。
    ウ 目的を意識して,中心となる語や文を見つけて要約すること。

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先生側から見た「やりがい」

このように、PYPのテーマに沿って、さらには学習指導要領と照らし合わせながら、UOIの授業を計画準備することは、教師にとっては大きな負担になります。

さらに大変なことには、児童を主体として「一緒に作り上げていく」ことが求められていて、臨機応変な対応が欠かせません。

先生はあくまでサポーターであって、児童たちがのびのびと探究の芽を伸ばしていけるようサポートを提供するという態度が必要です。

しかし、だからこそ、教師は児童たちの大きな成長を感じることができます。

IB教育を続けて4年にもなると、やらされるのではなく、自分で考えて自分で行動し、自分の考えを堂々と伝えられるようになっていきます。

教師の側が児童に助けられることも少なくありません。

もちろん、思うように行かないこともあります。例えばこのUOIでは、「ネガティブな面にも目を向けて欲しかった」「自分の日常生活と結びつけるところまで考えを深めるのは難しい」といった点が、次のUOIや来年度に向けた課題として申し送られ、学校全体でも改善を続けていきます。

そう、IB教育の実践にあっては、教師の側にも、ただ決められたことを繰り返すのではなく、自ら考え・自ら行動し、振り返っては改善を続ける姿勢が求められます。

むしろ、そうやって教師自身が成長を続けられることも、「やりがい」と感じられているようです。

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※注釈≪1条校≫学校教育法(昭和22年法律第26号)の第1条に掲げられている教育施設の種類およびその教育施設の通称。文部科学省が定めたカリキュラムに取り組む学校のことを指します。インターナショナルスクールなどの多くは1条校に該当しません。