「世界中どこでも魚を捕まえる方法を教える」国際バカロレア流の探究学習。
2020年1月、中国・四国・九州地方の小学校で初となる国際バカロレアPYP(初等教育プログラム)に認定された、英数学館小学校。特徴的な授業の1つが、探究学習の場となるUnit of Inquiry (UOI)/「探究の単元」と呼ばれる時間です。
これは、国際バカロレアPYPの規定する6つの教科横断的テーマに沿って構成され、理科・社会・国語・英語で学習する内容を含めてデザインされています。
今回は、英数学館小学校で「探究の単元」を担当する難波先生のインタビューをお届けします。
教育には終わりがない。
「やる気がないなら、出て行け」と激しく叱られて、目が覚めた経験があるからですね。高校時代は真面目な生徒ではなく勉強にも身が入らなくて。そんな時に女性の先生からガツンと言われて、自分とこんなにも一生懸命向き合おうとしてくれる先生が学校にいることに驚きました。
大学で進路を考える時に、自分の経験を思い出したんです。自分は良い影響を与えてもらえましたが、一方で日本の教育現場はネガティブな報道が多いことも事実。自ら中に入って現状を把握し、課題があるならば解決するための力になりたいと考えました。
はじめに岡山県の公立小学校で3年間、働きました。痛感したのは教育者としての責任の重さと、「教育には終わりがない」難しさ。
売上達成のような明確な区切りがなく、子どもたちのためにできることは無限にあるように思えました。
「教師に向いていると思ったか?」ですか、今でも向いているかどうか分かりませんが、難しいからこそ取り組みがいがあると感じました。
多様な価値観に溢れるシンガポールで修行
教師になって数年後にシンガポールの学校に転任したのですが、決めたのには3つ理由がありました。
1つ目は、公立小学校でも英語教育が始まり、「グローバル人材を育てる」立場だったわけですが、自分は海外で働いたことがない。子どもたちに説得力を持って伝えられるものがあるのか、という疑問が湧いたこと。
2つ目は、教育系NPOの活動でインドのスラム街にある小学校を見学した際に、食事も十分に食べられない子どもたちの勉強への情熱と英語力の高さに圧倒された経験から、外国の教育現場を知りたいと思ったこと。
3つ目は、自分の英語力を高めたかったこと。そこで、多民族国家であり、国際学力調査(PISA)で上位を占めるシンガポールに絞り、教員募集に迷わずエントリーしました。
日本人学校なので生徒は日本人ですが、保護者の方の国籍は様々。教師はトルコ、ブルガリア、南アフリカなど世界中から集まっていて、多様な価値観に溢れていました。
新しい教育を目指す英数学館で挑戦したい。
シンガポール日本人学校が英数学館と提携していることもあり、上司から「福山に、早くからイマージョン教育を取り入れていて、国際バカロレアPYP候補校になっている面白い学校があるぞ」と教えてもらったのが英数学館との出合いです。
もう少しシンガポールで経験を積みたい気持ちもありましたが、新しい教育を目指す英数学館で挑戦したいと帰国を決意しました。
学ぶプロセスを楽しむ「探究学習」とは?
これまでの教育との違いは、例えるならば「魚を与える」のではなく「世界中で魚を捕まえられる方法を教える」ということでしょうか。魚が必要な時に、釣り場がどこであっても捕ることができる、そんな応用力を身につけます。
そして、自発的に学ぶプロセスを楽しみ「もっと学びたい」と言う感覚を養うことで生涯学習につながる資質を作ります。
「なぜ探究学習が良いのか」と保護者の方にもよく質問されます。
これまでは「有名大を卒業して有名企業に入れば安心」という、いわゆる「正解」があったけれど、これからは違います。
子どもたちが大人になる20年後の未来は、私たちの想像を遥かに超える変化を遂げているかもしれない。だからこそ、どのような社会でも活躍し貢献できる、応用力こそが大きな強みになるでしょう。
探究学習の特徴の1つに、「教科横断型」があります。これは実社会での問題解決を想定した考え方です。
私たちは何かの問題に向き合う時に、「これは算数、理科、国語」とは考えません。実社会は、教科のように分断されたものではないからです。
探究学習は、理科・社会・国語・英語で学習する内容を横断的に組み入れて、より実社会近い形で、Wonder→Investigate→Discover→Act→Reflectのサイクルを繰り返し、真の問題解決力を身につけます。
評価という名のフィードバックが子供を育てる
難しさ…教科書に沿って進めれば良いわけではなく学習指導要領に基づき学習自体をデザインすることや、子どもたちを主導するのではなく子どもたち一人ひとりを見ながらガイド・サポートすることは、とてもチャレンジングなことだと感じています。
評価は探究学習の大きな特徴の一つですね。
単元の最後にまとめテストをすれば終わりではなく、3つのプロセスで評価をします。
はじめに、子どもたちの知識量や適した学び方を把握するための評価。これを元に、お互いに伸ばし合えるペアやグループ作りをします。
単元の中盤では、形成的評価と呼ばれる学びのプロセスを確認するもの。評価に応じて、ゴールに辿り着くためのサポートや新たな道を提示します。
最後は、子どもたちの達成度を測る総合的評価。プレゼンテーションや一問一答、オープン質問など、様々な方法で確認します。
また、振り返りでは子ども同士でピア・アセスメント(相互評価)を行います。6年生になると、評価基準自体を子どもたち自身が設定することもあります。
保護者の方には、学習記録や評価をポートフォリオで説明したり、プレゼンテーションの様子を動画で見てもらいます。また、3月に行うEisu Explorers’ Fairでの学習発表会にもご招待しています。「楽しく主体的に学べていて驚いた」という声や、時には「自分の子どもが他の子より上手くてきていなくて不安だ」という声も。
子どもの成長は一人ひとり違います。すぐに目に見える成果が出なくても、子どもを信じて応援して欲しいですね。高学年の子どもたちの感想に「低学年の頃はプレゼンテーションが苦手だったけど、今は楽しい」というものがよくあります。学校に子どもの力を育む環境さえあれば、どんどん適応し吸収する力が子どもにはあるのです。
想像を超える子どもたちの成長
探究学習の授業以外で成長を感じることがあります。
6年生の子どもたちに「クラスのためになる楽しい企画をしてみよう」と投げかけると、子どもたちが話し合い企画書を作って、こういうメリットがあるからやりたいと私にプレゼンしてくれました。「じゃあ、やってみよう」と言うと、子供たちみずからがタイムマネジメントしながら時間内に企画を実現してくれたんです。
また、6年生の子が「自分の進路について考えた」と言って、英数学館中学校も含めた複数の学校のメリット・デメリットが手書きされた比較表を持ってきてくれたことがありました。
「自分は英語力をつけて将来は世界中で仕事をしたいから、学校を比較した結果、英数学館に進学するんだ」と。保護者の方は日々経験されているのだと思いますが、想像を超えた子どもの成長を見た時の喜びは大きいですね。
教師は、一生学び続けなければいけない
英数学館の先生方と探究学習の仕掛けづくりを学ぶ研修を受けたり、ハーバード教育大学院のオンラインプログラムに参加したりしています。個人的には、マイクロソフト社の教育関係者向けコミュニティ「Microsoft Educator Community」に入っています。子どもを教える教師こそ、成長し続けなければならないと考えています。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。
こちらもあわせてご覧ください。